HOME

 

本ディベート大会の主旨/ルール/あり方について

200711

橋本努

 

(第三回ディベート大会以降の大会のために、以下のようなガイダンスを作成しました。参加者および判定員の方々に、参考にしていただけると幸いです。)

 

■本大会の主旨

・ディベートは一般に、「日本はサマータイム制を導入すべきか」といった明確な論題をめぐって、参加者が賛成派と反対派に分かれて、討議力を競い合うことが目的とされています。しかし本大会では、大学生にふさわしいディベートのあり方として、例えば「環境問題」「教育問題」「少子高齢化問題」といった、必ずしも明確ではない大きな論題をめぐって、各チームが独創的な政策構想を練り上げ、自分でこれが一番だと思う社会のあり方を主張することに、目的があります。

 

■本大会のルール

・最初に、それぞれのグループがパワーポイントを用いて、10分間のプレゼンテーションを行います。続いて、20分間のディベートを行います(先攻チームの質問(5分)と後攻チームの質問(5分)をそれぞれ二回繰り返します)。判定委員は、評価シートに評価を記入して、その点数を参考に、合議によって勝敗を決めます(点数と勝敗は必ずしも一致しません)。対戦は、リーグ戦ないしトーナメント戦で行い、優勝チームを決めます。先攻/後攻は、じゃんけんで勝ったチームを「先攻」とします。

 優勝チームには、記念として、研究科の予算から、賞状と2万円分の図書券が贈呈されます。2万円は、優勝チームの各人に分割して配分します。

・判定員が用いる評価シートは、すでに、橋本努のホームページ(ゼミのコーナー)に掲載されています。参加者はあらかじめ、この評価基準を参考にして戦略を立ててください。

 

■本大会の目指すディベートのあり方について

・ディベートの基本は、思考の論理を鍛えて、コミュニケーション・スキルを磨くことにあります。しかしそれだけでなく、本大会では、自分で表現したいこと(自分が望ましいと思う社会像)を、深いコミットメントをもって主張するという「自己主張力」に重点をおいています。

・ディベートにおける質疑応答には、「内在的反論」と「外在的反論」の2つがあります。相手の主張(構想)に対する賛意や敵意を示すことよりも、その主張の論理的な整合性と一貫性を求めるような批判(およびそれに対する応答)によって、討議力を競い合います。内在的反論を行うためには、相手の主張を注意深く聞き、その整合性の欠陥を見分けることが必要です。またディベートでは、相手の主張を的確に要約する力が求められています。的確に要約して、相手の議論の一貫性と整合性の欠如を批判することが求められています。

・ディベートには三つの論題があります。@「事実論題」:事実関係やデータの詳細を問うこと、A「価値論題」:「善い社会とは何か」とか「幸福とは何か」という大きな価値問題を問うこと、B「政策論題」:具体的な政策例やその導入時期や導入過程について問うこと、です。このうち、本大会では@Bに加えてAの価値論題を重視しており、このAは他のディベート大会ではほとんど議論されていないようですので、ご注意ください。

・多くの社会問題は、その問題があらかじめ明確に規定されているわけではなく、また答えも複数存在します。あるいはまた、答えの出せない問題も多く存在します。本大会において各チームは、何が問題の核心であるのかを、自分たちの手で明確にしなければなりません。例えば「少子高齢化」問題であれば、「少子高齢化のなにが問題なのか」を、現状分析と原因究明をふまえて、明確にしなければなりません。

・一般的なディベート大会では、各チームは、賛成派と反対派の両方の議論を準備して、その場でジャンケンをして賛成派/反対派の立場を決め、討議を始めます。なぜ、賛成/反対の両方の議論を準備するのかといえば、「私たち人間は弱いから、一つの立場に決めて議論を組み立てると、その立場に有利な情報しか集めることができず、結果として公平・構成な判断力を養うことができなくなるから」というものです。しかし本大会では、各チームは、一つの独創的な立場を築くことに主眼を置いています。賛成/反対の議論を組み立てることは比較的容易です。しかしむしろ、大学生に必要な能力は、独力で自分なりの社会構想を提示するという「構想力」であると言えます。

・新たな社会構想を提示する場合、必ずしもその構想が「日本社会の繁栄に役立つ」とか「日本経済の成長に資する」という基準に訴える必要はありません。たとえ日本社会が繁栄しなくても、あるいは経済成長が鈍化しても、自分で「善い」と思う社会の構想を示すことが重要です。

・求められている社会構想は、一つ一つの議論の積み重ねによって生まれます。一つの斬新な構想を提示する場合にも、その構想を他の制度との関係で、一貫して体系的に説明することが求められています。いくつかの政策を提示する場合には、それらの政策がある構想(思想)において密接に関連することを示してください。

・求められている社会構想は、政策と価値の二つから成り立ちます。ある新しい政策の導入を訴える場合、各チームは、その理由となる「善き社会のビジョン」を提示して、政策と価値(ビジョン)の関係を論理的に明確にしてください。

・相手チームの社会構想を批判する場合、構想の実現可能性や、構想の善し悪しを批判するのではなく、@その構想がなぜ「善い社会」なのか(善い社会とはなにか)、Aその構想はどの程度論理的に一貫しているのか、Bその構想は他の構想よりもどの点ですぐれているのか、Cその構想の価値と政策は整合的に語られているか(別の政策のほうが同じ構想をよりよく満たすのではないか)、D提案された政策の「意図せざる結果」(あるいは副作用)として、その構想はうまく実現されないのではないか、E政策の社会的・経済的なコストはどの程度か、といった、論理的に検討しうる問題を提起してください。構想の実現可能性と善し悪しは、いっさい問いません。

・中高生のためのディベート甲子園では、各チームは、プレゼンテーションで述べなかった論点を質疑応答で追加することが禁止されています。また、最初の質疑応答時間に質問しなかった論題は、第二の質疑応答時間に質問することが禁止されています。しかし本大会では、このようなルールはとくに設けていません。

・一般にディベート大会の目的は、相手の言っていることを誠実によく聞くことだ、といわれます。誠実に聞く力がないと、有効な反論をすることができないからです。しかし本大会では、この目的に加えて、「日々の生活で、ニュースを聞いたり新聞を読みながら、自分なりの意見形成をすること」を促したいと考えています。

・ディベートでは、その準備段階において、自分たちのチームに対する「ありうる反論」を想定して、議論を組み立てることが求められています。まったく反論の余地のない議論を組み立てることが目的なのではありません。反論の余地のない社会構想はありません。むしろありうる反論を想定して、その反論にうまく応答することが求められています。

・また、あらかじめ想定していなかった反論に対しては、いかにその反論が説得的であろうとも、自らの主張の根本を代えずに、即興的な応答の技量をみせることが必要です。即興的な議論の能力は、さまざまな機会に議論をするという、議論の積み重ねによって身につけていく必要があります。

・本大会では、相手チームの立論に反論する際に、資料やデータを提示して質問することが推奨されています。プレゼンテーションとは別に、相手チームへの反論のために、あらかじめ資料やデータをご用意ください。

・ディベートには時間制約があります。とくに質問においては、時間の制約を考えて、何が最も重要な批判点となるかについて、取捨選択してください。相手チームに反論する場合、その反論によって、自分たちのチームの立論が優位であることを示すことが効果的です。

・新しい社会構想を提案する場合、その提案の意義を判定員に理解してもらうことは、意外と難しいものです。各チームは、最も主張したい点について、キャッチフレーズを作ったり、また、繰り返し強調したりすることが必要になります。

・一般にディベートは、専門家ではない素人が、社会的判断力を鍛えるための方法です。しかし例えば、昨今の教育改革のように、実現された政策は、教育の専門家以外の人たちの提案によって、主導されていることが多々あります。専門家以外の人々の社会構想力を鍛えることは、ますます求められています。その意味で、ディベートの目的は、この世の中を少しでも善いものにしていくための、市民社会の基礎となるスキルを築くことです。私たちはしかし、日常生活のなかで、反論されそうな意見は、あらかじめ述べないことにして、議論を避ける傾向にあります。本大会を通じて、「反論されたら反論し返す」という議論の能力を身につけていくことが、求められています。

・プレゼンテーションと質疑応答では、なによりも、判定員の評価を勝ち取ることが重要です。プレゼンテーションでは、判定員とアイコンタクトをとりながらすすめてください。また質疑応答では、判定員の評価に適うような質問ないし応答を試みてください。

・中高生のためのディベート甲子園では、各判定員は、それぞれ3点を持ち点として、これを3-0, 2-1, 1-2, 0-3という具合に、二つのチームに割り振って勝敗を決めます。しかし本大会では、判定委員は、10項目にわたって、1-5点(しかも小数点第一位まで可能)を付け、その総合得点(最高50点、最低10点)を、それぞれのチームに付けますので、勝敗は、かなり微妙な判断の差で下されます。勝敗の判断に納得のいかない場合もあるかと思いますが、参加者は判定員の判断と権威を尊重し、また判定員は、自身の評価を参加者の面前で伝えるという義務を負うことで、公正な大会運営になるように努めています。

 

以上です。